とは一体どういう意味であろうか。
「フゥ・・・どうやら、大変なものを見つけてしまったようだな」
「と、おっしゃいますと・・・?」
その意味するところは薄々わかってはいたが、私は敢えて訊ねた。
「おそらくこれは、真の名称・・・であろうな、“バリツ”の」
卿は顎鬚をさすりながら答えた。
「しかし、“バリツ”の語源は、マスター・ホームズが、“転バず競リ勝ツ”という書き
付けからカタカナ部分を拾い読みしたものだと・・・」
「君は、あのワトスン博士の手記の内容を信じておるのかね」
卿の目が鋭く光った。
「・・・!! でも、あれは博士の直筆だと鑑定されたのでしょう?」
「確かにそうだ。だが、あの頭脳明晰なグレート・マスターが、“スモウ”というたった
二音節の名称も憶えられなかったなどと・・・おかしいとは思わんかね」
「それは、僕もまるで冗談のような話だと感じてはいましたが・・・。では、あの手記
の内容は作り話だった、と?」
「ワトスン博士が嘘を書いたとは思わん。だが、マスターが博士を欺くために作り話
を吹き込んだということはあり得る」
「何のためにそんなことを? 博士はマスターの親友でしょうに」
「考えてもみたまえ、テディ。ワトスン博士は手記という形でマスターの行動を逐一
世間に公表していたのだぞ。当然、マスターにしてみれば、他人に知られたくない
話とて多々あったであろう」
「その一つが、このバリツの・・・“語源”だった、ということですか?」
「そういうことだ。欺かれていたのは、ワトスン博士だけではないのかもしれぬ」
「我々、弟子たちも・・・ですか?」
卿はこわばった表情で頷いた。
卿は、件の紙をしまうと、紅茶を運ばせ、葉巻に火をつけた。
「帰国次第、あの文字の解読をしてもらいたい」
「それは、もちろん」
「くれぐれも慎重にな。バリツの存在を根幹から揺るがす結果となるやもしれん。
あの紙の存在を知っている評議会のメンバーは、私と君だけだ。あれを発見した
財団の人間にも、堅く口止めしておる」
「わかりました・・・」
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